【2023年5月版】

日本の洋食の黎明を紐解く「なぜアジはフライでとんかつはカツか?: カツレツ/とんかつ、フライ、コロッケ 揚げ物洋食の近代史」

公開日: 2023/05/15
読了時間: 約 9分

”とんかつ”とは? ”洋食”とは、なんなのか?

本日ご紹介したい書籍はコチラ!

「なぜアジはフライでとんかつはカツか?: カツレツ/とんかつ、フライ、コロッケ 揚げ物洋食の近代史」

タイトルにある”カツ”=“カツレツ”の由来をきっかけとして、膨大な資料を元に、日本に深く根付いた洋食文化の由来について緻密に迫っていきます。 表題のフライとカツの違いから、そもそもの”洋食”や”洋食文化”について、はたまた世界の国際情勢への帰結まで、まさかまさかの大展開であります。

なぜアジはフライでとんかつはカツなのか…?この問いに対する答えは書籍を参照していただくとして、個人的な読み応えポイントを以下につらつらと述べてみたいと思います。

ポイント1: “フレンチ” vs “洋食”

冒頭から明らかになるのですが、日本にあまねく広がって根付いた洋食文化のベースとなる料理はフレンチではありませんでした。 フレンチもいち早く、というか幕府が開港して以来、海外からの外交使節とやりとりをする上で欠かせないのは”フレンチでの晩餐”でありました。そのため”外交”・“開港”とともにフレンチは日本に上陸したはずです。なのになぜ、一般的な”洋食”にフレンチはなれなかったのか。 当時も世界でもっとも”進んだ料理”とされたフレンチですし、日本にも多くのコックがいてフレンチを作る”料理人”はたくさんいました。なのになぜ、“洋食”になれなかったのか。

日本に数多くある”洋食屋”さんの料理はもちろんフレンチではありません。当然、フレンチからインスパイアされた洋食も非常に多くあります。 しかし、今現在でも”フレンチ”は”フレンチ”として存在していますが、“洋食”に対する元の料理はほぼ世界で失われており、日本の”洋食”としてしか残っていません。

このダイナミズムというか今日に至るロジックが、単なる”フレンチは難しい”とか”最高級だから”といった単純な理由ではなく、“コック”という職業柄に由来する”フレンチ”と”洋食”の出自がもたらす社会や国際社会のシステム、それぞれの国の文化に由来して、まさに起こるべくして起こった、歴史の必然であった、ということが多角的に検証されている点が”実に面白い”わけであります。

ポイント2: “洋食”が日本独特になったのは?

上でも挙げましたが、日本の”洋食”は現在では日本独特のものとなっております。ただし、“元ネタ”はその当時はしっかりとあったのであります。 昨今のYoutubeやテレビでも外国から来た人に初めての日本食を食べてもらう企画が数多くありまして、その中でもとんかつやオムライスをはじめとする”洋食”を食べてもらうネタは鉄板となっており、外国人、特に欧州系のみなさまが”洋食”を初めて食べてビックリする動画はYoutubeに星の数ほど上がっていますね。 ですが欧米から伝来したはずの”洋食”がなぜ日本のオリジナルになってしまったのか?洋食のもとになったレシピは確実にあるはずなのになぜ元となる料理は失われてしまったのか?

これも欧米の社会システムや社会情勢から来る必然であり、フレンチが日本にとって”洋食”になれなかった理由の、さらにその先にある帰結である、というダイナミズム。ここがまたスんゴイ。

ポイント3: レシピから見える社会システム、料理という”技術”

そして、“洋食”の元となった料理のレシピが、その国家の社会システムに由来するものであった、ということ、いや、そもそも今、僕らが口にする料理のレシピは”今、現在存在する調理器具や材料”を組み合わせて作られているという当たり前のことが、普段は頭から抜けているので今の常識で当時のレシピを見てしまうのですが、当時のレシピは当時の調理器具、当時の材料を使って作られており、なおかつ当時の経済状況から考えてコスト的に最善の調理方法や材料が選ばれたものである、ということ。

つまり “その時代のレシピ”には”その時代の技術”や”経済状況”においての”最尤解がある” ということ。

この視点、この視点が本書にはあるのです。 まさにここが”技術屋として唸る”ポイントであります。

というわけで

膨大な資料を集めて当時のレシピを緻密に追っていくこともとんでもなく大変なことですが、さらに膨大な資料を集めた結果、それをどう分析して、どう評価するのか?そこが重要でありまして、単にレシピの変遷から由来を遡っているだけではないのです。

レシピを通して、その時代や当時の社会的な背景をしっかりと分析しているのです。ここが本書をとんでもないスケールの書籍にしているのであります。 単なる料理のレシピから、当時の技術、経済、社会、国家、国家間の国際情勢を踏まえて欧米から伝わった料理が”洋食”になり、日本で独特の進化を遂げていると同時に、元のレシピが失われていく過程が、世界史の近現代史の流れとともにはっきりと示されているのです。

こんな書籍に出会えてよかった。

マストバイです。ぜひ、おすすめいたします!!

「なぜアジはフライでとんかつはカツか?: カツレツ/とんかつ、フライ、コロッケ 揚げ物洋食の近代史」

ちなみにこの本のシリーズの次巻、“お好み焼き”も日本の大衆文化と洋食文化のミクスチャでありまして大変面白いです。読了後にレビューを書きたいと思います〜!