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AIエージェント時代の「作らない技術」(5) ― 着手前に検証すべき6ポイント

【2026年7月版】

AIエージェント時代の「作らない技術」(5) ― 着手前に検証すべき6ポイント

公開日: 2026/07/25
読了時間: 約 9分

第4回では、頑張るだけ損になる10の実装と、「待つ」という選択を扱った。とはいえ、目の前の実装がそこに当てはまるかどうかは、その都度の判断になる。着手前に検証すべきポイントは、次の6つだ。

1. 最新モデルに、素のまま任せて試したか

補助のコードを書く前に、いまのモデルが素の状態でどこまでできるかを測る。半年前には必要だった工夫が、いまはもう要らないことがある。

試し方は単純で、手を入れていないプロンプトに実際の入力を20件から30件ほど通し、どこがどう失敗したかを記録する。形式が崩れるのか、事実を取り違えるのか、長い入力で抜け落ちるのか。失敗の中身が分かってはじめて、補うコードの要否も決まる。

ここで「うまくいかなかった」で止めないほうがいい。モデルを新しいものに替える、指示を短くする、入力の渡し方を変える。この程度で消える問題であれば、そもそも実装するものは何もない。

2. 提供元のドキュメントに、同等の機能がすでにないか

構造化出力、ツール利用、記憶、長文入力、バッチ処理、プロンプトキャッシュ。作ろうとしている仕組みは、たいてい標準機能の一覧に載っている。

第2回で触れたJSON修復器は、その典型だった。壊れた出力を前提にした修復コードは、Structured Outputsのようなスキーマ準拠の機能が入った時点で役目を失う。同じことが、ツール選択の自作構文にも、独自の記憶にも起きている。

確認先は、各社のAPIリファレンスと変更履歴だ。目次を眺めるだけでも、自作しようとしていたものの多くは見つかる。ベータや研究プレビューの段階にある機能も、ここに載る。

3. モデルの不足を補うための仕様になっていないか

これから書く仕様が、扱うデータの構造や業務上の決まりを定めるものなら、そのまま着手してよい。事業が続くかぎり必要とされ、実装はそこからいつでも起こし直せる。

疑うべきは、モデルの不足を補うために立てた仕様のほうだ。出力形式を整えるための後処理、長文を分割して渡す手順、モデルごとの言い回しの差を吸収する層。どれも仕様の体裁をとっているが、支えているのは業務ではなく、いまのモデルの弱点でしかない。モデルが変われば、その仕様ごと不要になる。

4. 動かし続けるのに、毎月どれだけ手がかかるか

見積もるのは初期の実装時間ではなく、モデル更新のたびの動作確認、評価の作り直し、障害の切り分け、依存ライブラリの追従を月あたりの時間で見たものだ。作業自体はエージェントに任せられても、正しく直ったかを確かめ、どこまで許容するかを決めるのは人になる。

第2回で見たとおり、モデルの寿命はおよそ一年だ。つまり、作ったものは一年のうちに一度は必ず載せ替えを迫られる。月に数時間なら小さく見えるが、一年では数十時間になる。この総量と、その実装が生む価値を並べる。

5. 消す手順と担当が決まっているか

どのコードを消せば元に戻るのか、設定で無効化できるのか、誰がその判断をするのか。決まっていないものは、要らなくなっても残り続ける。

実装の前に、撤去の条件を一行書いておくといい。「モデル側が同等機能を出したら消す」「三か月使われなければ消す」。条件を先に書いておけば、そのときが来たときに議論をやり直さずに済む。第3回で触れたとおり、書いた時間が長いほど捨てにくくなるからだ。

6. 人の側に、どれだけ判断が積まれるか

エージェントが実装している間、人は別の仕事に移れる。コードを書く時間そのものは、もう機会費用にならない。

取られるのは判断のほうで、ループをどう組むか、仕様をどう決めるか、指示をどう直すか、出てきた差分をどうレビューするかが残る。実装が増えるほど、この判断の待ち行列が伸びる。エージェントを何本並列に回しても、最後に確かめるのは人であり、そこが詰まれば全体が止まる。

だから見積もるのは、実装にかかる時間ではなく、その実装が生涯にわたって要求してくる判断の量だ。仕様を書き、評価を決め、更新のたびに確認し、いつ捨てるかを決める。エージェントは、この負荷を肩代わりしてくれない。

結局、判断だけが人に残る

6つのうち一つでも答えられなければ、それ自体が着手を見送る理由になる。試していないなら試し、ドキュメントを見ていないなら見て、撤去の条件を決めていないなら決める。どれも数時間で済む作業であり、そのあいだにモデルが更新されて問題ごと消えてしまうことさえある。

丁寧に設計してテストを揃えても、外部環境が動けば実装は座礁資産になる。だからこそ、頑張る前に測り、待てるものは待ち、作るものは捨てられるようにしておく。作らない技術とは、この判断を意識的に下し続けることに尽きる。

エージェントが実装を引き受けるようになっても、何を作り、どこで捨てるかという判断は人の側に残り続ける。その判断に割ける時間こそ、AIエージェント時代の技術者にとって最も回復の難しい資源になる。トークンは買い足せても、費やした判断の時間は戻ってこないのだから。

参考リンク